エレクトロポレーション法(Electroporation)は、外部から電気パルスを加えることで細胞膜に微小な孔を開け、DNAやRNAといった大分子を細胞の内部へ導入する手法の一つです。もともとは遺伝子導入のために開発された技術で、遺伝子改変などの研究の他、ゲノム編集の技術やがん治療の分野でも活用されています。
原理
エレクトロポレーション法の基本的な原理は、電気パルスを利用して細胞膜に孔を開け、物質の細胞内への導入を促進することです。こうした電気パルスによる細胞膜への影響は一時的で、孔が開いた後は自己修復の力で元の状態に戻ります。
この孔が開くメカニズムは、細胞膜が一定の電場強度下で誘電体のブレイクダウン(電気的破壊)を起こすと考えられています。つまり、電場の強さが一定の閾値を超えると細胞膜に欠陥が生じ、これによって孔が形成されます。
実験手順
エレクトロポレーション法の基本的な実験手順は以下の通りです。
- 1. プラスミドDNAなどの導入したい物質を細胞と混ぜ合わせる。
- 2. 混合物を電気パルスを加えられるチューブに入れる。
- 3. 電気パルスを加える。このときに適切な電圧とパルス時間を設定する。
- 4. 電気パルス加工後、細胞を適切な培地で培養する。
歴史と経緯
エレクトロポレーション法は1980年代に開発され、当初は遺伝子導入の手法として利用されました。
以降、がん治療やゲノム編集の分野でも用いられるようになり、さまざまな応用が可能な手法となっています。
応用
エレクトロポレーション法は、生物学や医学分野で幅広く利用されています。主な応用例は以下の通りです。
– 遺伝子導入: 研究や治療のために特定の遺伝子を生物の細胞に導入する。
– ゲノム編集: CRISPR-Cas9などのゲノム編集ツールを細胞に導入し、特定の遺伝子を編集する。
– がん治療: 遺伝子治療や免疫療法において、抗がん遺伝子などをがん細胞に導入し、がん細胞を死滅させる。
問題点と課題
エレクトロポレーション法は便利な手法ではありますが、その効率と細胞への影響には改善の余地があります。
電圧設定が適正でないと細胞へのダメージが大きいという問題があります。また、細胞の種類によって最適な条件が異なり、それぞれの細胞で適切な条件を見つけるのは手間と時間がかかります。
このような問題に対応するため、最適なパルス条件を見つけるためのガイドラインや、細胞へのダメージを最小限に抑えつつ効率的に導入を行う新たなエレクトロポレーション装置の開発が行われています。
参考書籍
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- バイオ実験超基本Q&A―意外に知らない、いまさら聞けない
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- バイオ実験イラストレイテッド〈1〉分子生物学実験の基礎 (細胞工学別冊 目で見る実験ノートシリーズ)
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- バイオ実験イラストレイテッド〈3+〉本当にふえるPCR (目で見る実験ノートシリーズ)
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