【生命科学】エピジェネティクス【用語解説】

生命科学

エピジェネティクスあるいはエピゲノムは、遺伝子の配列そのものは変わらずに遺伝子の働きが変わる現象、またはそのメカニズム、またはそれらを研究する分野の名称を指します。DNAメチル化ヒストン修飾、RNA分子や転写因子の働きによって制御される遺伝子領域の開閉(オープンクロマチン等という)などが代表的なエピジェネティクスの機序です。

原理

エピジェネティクスの中心的な原理は、DNAの化学的修飾やその周辺のタンパク質の修飾によって遺伝子の発現が調節されることです。主なエピジェネティックなメカニズムとして、以下の4つが挙げられます。

これら4つのメカニズムは、多様で複雑な遺伝子調節や発育のステップを制御します。

関連する実験

配列そのものは変化しないので、遺伝子の発現を調節する要因となるDNAメチル化ヒストン修飾、あるいは、オープンクロマチンの分布を解析します。

具体的には、ChIP-seqクロマチン免疫沈降解析)で修飾ヒストン修飾のゲノム上における位置、Bisulfite-seqやRRBSでDNAメチル化の位置、ATAC-Seqオープンクロマチンの位置を調べます。

具体例

エピジェネティクスが示される例として、以下のような事例が挙げられます。

  • 1. 完全に同じ遺伝情報を持つ一卵性双生児であっても、外見や病気の罹患状況などが異なることがあります。これはエピジェネティクスによって遺伝子の発現が調節され、同じ遺伝情報であっても形質の発現が異なるためです。
  • 2. ストレスや飢餓などの環境ストレスはエピジェネティクスによる遺伝子発現の変化を引き起こし、それが行動や疾患の発症に影響を及ぼすことが知られています。

歴史と経緯

エピジェネティクスの概念は1940年代にイギリスの発生生物学者、C.H.ワジャディングトンによって初めて提唱されました。「エピジェンシス」という古典的な語を借りて「エピジェネティクス」という新たな語を作り出し、遺伝的な情報によって細胞の分化や発生がどのように制御されるのかを説明しました。

しかし、彼が提唱した時点ではまだ具体的なエピジェネティクスのメカニズムは明らかにされていませんでした。それが具体的に解明されるようになったのは1970年代以降、DNAメチル化ヒストン修飾が遺伝子の発現制御に関与することが次々と明らかにされてからです。

また2000年代に入るとヒストン修飾の種類と役割、非コードRNAの存在とその役割が明らかにされ、エピジェネティクスが「ゲノム配列の変化を伴わない形質の変化を指す学問領域」として確立されました。

応用

エピジェネティクスの理解が進むことで、有望な応用分野が多数浮かび上がってきました。発生学、生理学、医学など幅広い分野でその可能性が探索されています。

特に医学分野における応用として注目されるのが、新たな治療方法の開発です。エピジェネティクスの異常が様々な疾患に関連していることがわかりつつあります。がん、神経変性疾患、心血管疾患、自己免疫疾患などの疾患において、エピジェネティクスの制御異常が発症や進行に影響を及ぼしていることが報告されています。

これらの疾患に対する新たな治療方法として、エピジェネティックな制御を正常化する方法が研究されています。例えば、エピジェネティクスの異常が関与すると考えられる疾患に対して、エピジェネティクスを修正する薬剤の開発が進められています。

また、疾患の早期診断や予後予測、個別化医療への応用も期待されています。例えば、がん細胞だけに特異的なエピジェネティックな変化を検出することで、早期診断や疾患進行の予測、最適な治療法の選択に役立てることが可能になるかもしれません。

エピジェネティクスの研究はまだ発展途上の段階にありますが、今後の研究の進展により、より具体的な応用が待たれています。

参考書籍

バイオ実験基本セット

バイオ実験イラストレイテッド

生命科学基礎セット

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