バイサルファイトシークエンシング(Bisulfite Sequencing)は、DNA内に存在するメチル化シトシン(5mC)を検出するための手法の一つで、DNAのメチル化状態を全ゲノムで同定する実験です。目的はエピジェネティクスの理解です。
原理
バイサルファイトシークエンシングの基本原理は、シトシン(C)と5-メチルシトシン(5mC)がバイサルファイトイオン(HSO3-)の存在下で異なる反応を示すことにあります。
具体的には、バイサルファイトはシトシン(C)をウラシル(U)に変換しますが、5-メチルシトシン(5mC)は変化しません。この特性を利用して、バイサルファイト処理した後のDNAシークエンスを読むことにより、メチル化シトシンの位置を明らかにすることができます。
実験手順
バイサルファイトシークエンシングは大まかに4つの手順で進行します。
- 1. DNA抽出:バイサルファイトシークエンシングを行うためには、まず対象となるDNAを抽出します。
- 2. バイサルファイト処理: 次にバイサルファイト処理が行われ、DNA内のシトシン(C)はウラシル(U)へと変換されます。この反応後、メチル化されていないシトシンは全てウラシルに変換され、メチル化されたシトシンのみがシトシンとして残ります。
- 3. PCR増幅: バイサルファイト処理したDNAは非常に不安定であるため、PCRによって増幅します。これにより、DNAの量を増やすとともに、シーケンスに必要な構造、すなわちライブラリーを作成します。
- 4. DNAシークエンシング:最後に、PCRで増幅されたDNAを次世代シーケンサーにより解析します。シーケンス結果を確認し、メチル化シトシンの位置を明らかにします。
なお、バイサルファイト処理では、メチル化されていないシトシンはウラシルに変換され、次に行われるPCRでアデニンと対応する塩基として認識されます。一方、メチル化シトシンはバイサルファイト処理を受けてもシトシンのままであり、PCRにおいてグアニンと対応する塩基として認識されます。
課題
バイサルファイトシークエンシングにはいくつかの問題点や課題があります。
一つ目は、バイサルファイト処理によるDNAの劣化です。バイサルファイト処理はDNAに大きなストレスを与え、DNA分子を劣化させる可能性があります。
二つ目は、メチル化されたシトシンとヒドロキシメチル化されたシトシン(5hmC)の区別ができない点です。これらの課題に対する対応策として、バイサルファイトシークエンシング法の改良が進められています。
参考書籍
バイオ実験基本セット
- これからはじめる人のためのバイオ実験基本ガイド (KS生命科学専門書)
- イラストでみる超基本バイオ実験ノート―ぜひ覚えておきたい分子生物学実験の準備と基本操作 (無敵のバイオテクニカルシリーズ)
- 改訂 バイオ試薬調製ポケットマニュアル〜欲しい試薬がすぐにつくれる基本操作と注意・ポイント
- バイオ実験法&必須データポケットマニュアル―ラボですぐに使える基本操作といつでも役立つ重要データ
- バイオ実験超基本Q&A―意外に知らない、いまさら聞けない
バイオ実験イラストレイテッド
- バイオ実験イラストレイテッド〈1〉分子生物学実験の基礎 (細胞工学別冊 目で見る実験ノートシリーズ)
- バイオ実験イラストレイテッド②
- バイオ実験イラストレイテッド〈3+〉本当にふえるPCR (目で見る実験ノートシリーズ)
- バイオ実験イラストレイテッド④
- バイオ実験イラストレイテッド〈5〉タンパクなんてこわくない (目で見る実験ノートシリーズ)
- バイオ実験イラストレイテッド⑥
- バイオ実験イラストレイテッド⑦
コメント