【生命科学】原核生物【用語解説】

生命科学

原核生物(Prokaryotes)は、生命の多様性の中で最も古代的な生物群の一つであり、真核生物(Eukaryotes)と対照的な特徴を持ちます。この記事では、原核生物の特徴、分類、代表的な種、および重要性について詳しく解説します。

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特徴

原核生物は、以下の主要な特徴を持つ単細胞生物です。

分類方法および呼称(学名)

生物種に依らず、生物は形態、生化学、および遺伝子の類似性に基づいて以下のように分類されます。

  1. 界(Kingdom): すべての生物分類は、3つのドメインに分類されます。細菌はバクテリア(Bacteria)として知られるドメインに属します。
  2. 門(Phylum): バクテリアの次の階層は門です。門には似た特性を持つ多くの細菌が含まれます。
  3. 綱(Class): 門は綱にさらに細分化され、細菌の特性に基づいてグループ化されます。
  4. 目(Order): 綱は目に細分化され、細菌の形態や生態学的特性によって分類されます。
  5. 科(Family): 目の中で、細菌がより細かく似た特性に基づいて分類され、科にグループ化されます。
  6. 属(Genus): 科内の細菌は属に分類され、類似性に基づいて識別されます。
  7. 種(Species): 細菌の最も具体的な分類単位は種です。種は同じ属に属する細菌間で細かく分類され、最も似た特性を持つグループです。

原核生物はドメインがBacteriaの生物です。表にすると以下のようなイメージになります。

階層ヒト大腸菌
ドメイン(ドメイン)EukaryotesBacteria
界(キングダム)Animalia
門(ファイラム)ChordataProteobacteria
網(クラス)MammaliaGammaproteobacteria
目(オーダー)PrimateEnterobacterales
科(ファミリー)HominidaeEnterobacteriaceae
属(ジーナス)HomoEscherichia
種(スピーシーズ)Sapienscoli
血清型等(セロタイプ)O157

通常、ある生物の名称を厳密に述べる(=学名を述べる)場合は、属と種名を述べます。文字として書く場合は斜体を用います。例えば大腸菌であれば、属はEscherichia、種はcoliなので、Escherichia coliと書きます。ただし、属は略すことが多く、E. coli の様に記載します。なお、学名に限りませんが、略した場合は略語の後にドット(.)を付けます。

グラム染色による細菌分類

グラム陽性細菌(Gram-Positive Bacteria)

グラム陽性細菌は、グラム染色法において紫外線または赤外線で染色されることからその名前が付けられました。この性質は細胞壁が(グラム陰性細菌と比べて)厚いペプチドグリカンで構成されていることによります。このグループには、乳酸菌、炭水化物発酵菌、球菌などが含まれます。一部のグラム陽性細菌は有用な発酵微生物として利用され、ヨーグルトやチーズなどの食品の発酵に関与します。

グラム陰性細菌(Gram-Negative Bacteria)

グラム陰性細菌は、細胞壁の外側に薄いペプチドグリカン層と外膜を持つ特徴的な構造を持ちます。このグループには、大腸菌サルモネラなどが含まれ、病原性細菌の一部もここに属します。

その他の細菌分類

シアノバクテリア(Cyanobacteria)

シアノバクテリアは、光合成によって酸素を発生させる能力を持つ細菌です。これらの細菌は水中や土壌に広く分布し、藻類としても知られています。シアノバクテリアは、酸素が地球大気中に存在する原因とされています。

硫黄細菌(Sulfur Bacteria)

硫黄細菌は、硫黄を酸化または還元する能力を持つ細菌です。これらの細菌は、硫黄鉱物の生成に関与し、硫黄循環に寄与します。

プロテオバクテリア(Proteobacteria)

プロテオバクテリアは、細菌の多くを包括する大グループで、細菌の多様性において重要な役割を果たしています。このグループには、腸内細菌窒素固定細菌細菌性膜などが含まれ、さまざまな生態系で見られます。

代表的な種

細菌は非常に多様であり、さまざまな生態系で存在し、重要な役割を果たしています。以下では、代表的な細菌について、各々の特徴を解説します。

1. 大腸菌 (Escherichia coli)

  • 形状: グラム陰性の桿菌
  • 代謋: 好気性、発酵
  • 生息地: 腸内
  • 役割: 消化器系に生息し、腸内細菌叢の一部。遺伝子工学のモデル生物として広く使用。
  • 補足: 血清型によって病原性があるものとそうでないものに分かれます。例えば血清型がO-157の大腸菌は病原性があります。

2. サルモネラ菌 (Salmonella enterica 等)

  • 形状: グラム陰性の桿菌
  • 代謋: 好気性、発酵
  • 生息地: 腸内
  • 役割: 食中毒や腸内感染症の原因。下痢や腹痛を引き起こします。
  • 補足: 血清型によって感染先や症状が異なります。食中毒を起こす血清型は非チフス型サルモネラ属菌で、血清型まで述べた正式な学名は Salmonella enterica subsp. enterica serovar Typhimurium です。略す場合はSalmonella Typhimurium 等になります。

3. 枯草菌 (Bacillus subtilis)

  • 形状: グラム陽性の桿菌
  • 代謋: 嫌気性、発酵
  • 生息地: 土壌、腸内
  • 特徴: 内生胞子を形成することによって様々なストレスに対し て強い抵抗性を獲得し,極めて厳しい環境下でも生き延びることができる

4. 黄色ブドウ球菌 (Staphylococcus aureus)

  • 形状: グラム陽性の球菌
  • 代謋: 好気性、乳酸発酵
  • 生息地: 皮膚、鼻腔
  • 役割: 皮膚感染症、食中毒、呼吸器感染症の原因。

5. 肺炎球菌 (Streptococcus pneumoniae)

  • 形状: グラム陽性の球菌
  • 代謋: 好気性、乳酸発酵
  • 生息地: 口腔、上気道
  • 役割: 肺炎や髄膜炎の原因。

6. 乳酸菌 (Lactobacillus plantarum 等)

  • 形状: グラム陽性の球菌や桿菌
  • 代謋: 好気性、乳酸発酵
  • 生息地: 乳製品、発酵食品、口腔
  • 役割: 食品の発酵、保存、プロバイオティクスとしての利用。

7. 緑膿菌 (Pseudomonas aeruginosa)

  • 形状: グラム陰性の桿菌
  • 代謋: 嫌気性、非発酵
  • 生息地: 土壌、水、院内感染
  • 役割: 院内感染症の原因。耐性菌株が問題となる。

8. 結核菌 (Mycobacterium tuberculosis)

  • 形状: グラム陰性ではないが、酸性アルコールで着色される
  • 代謋: 嫌気性、非発酵
  • 生息地: 肺、他の組織
  • 役割: 結の原因。肺結や結性髄膜炎を引き起こす。

9. レンサ球菌 (Streptococcus pyogenes)

  • 形状: グラム陽性の球菌
  • 代謋: 好気性、乳酸発酵
  • 生息地: 口腔、上気道
  • 役割: 溶連菌感染症の原因。喉の炎症を引き起こす。

10. ヘリコバクターピロリ (Helicobacter pylori)

  • 形状: グラム陰性のらせん菌
  • 代謋: 嫌気性、非発酵
  • 生息地: 胃の粘膜
  • 役割: 胃潰瘍や胃がんの原因。

11. カンピロバクター・ジェジュニ (Campylobacter jejuni)

  • 形状: グラム陰性のらせん菌
  • 代謋: 嫌気性、非発酵
  • 生息地: 腸内、野生鳥類
  • 役割: 食中毒の原因。下痢や発熱を引き起こす。

重要性

原核生物は、地球上の生態系と生命において重要な役割を果たします。

  • 生態系プロセス: バクテリアは分解者としての役割を果たし、有機物の分解や栄養循環に貢献します。
  • 窒素固定: 一部のバクテリアは窒素固定の能力を持ち、大気中の窒素をアンモニウムイオンに変換し、植物が利用できる形に変えます。
  • 発酵: 発酵原核生物によって行われ、食品の発酵プロセス、アルコールの発酵、醗酵食品の製造に利用されています。
  • 疾患と健康: 病原性バクテリアは感染症の原因となり、一方で腸内細菌叢は健康に重要な役割を果たします。
  • 生命の起源: 原核生物は地球上で最初の生命形態と考えられ、生命の起源に関する研究に重要な情報を提供します。

まとめ

原核生物は生命の多様性の基盤であり、古代的な生物群です。分解、窒素固定、発酵、疾患、健康、生命の起源など、多くの側面で地球上の生態系と生命に影響を与えています。原核生物の研究は、生物学と生態学の進歩に不可欠であり、今後の研究においても重要性を持ち続けるでしょう。

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