【生命科学】キャピラリー電気泳動【用語解説】

生命科学

キャピラリー電気泳動(Capillary Electrophoresis、CE)は、電場中でイオンを移動させ、その移動速度の差によりサンプルを分離する電気泳動の一種です。キャピラリー電気泳動では分離カラムとして細いガラスチューブ(キャピラリー)を使用し、その内部を試料が移動することで分離を行います。

原理

電気泳動の原理を理解するためには、まず電気移動度という概念を理解する必要があります。電気移動度とは、電場に対するイオンの移動速度の比率を表します。イオンの電気移動度は、その大きさ、質量、電荷の数、形状、そして溶媒の粘性や温度に依存します。

式で表すと以下のようになります。

V = Eq / f

ここで、Vはイオンの速度、Eは電場強度、qはイオンの電荷、fは抵抗を表します。

キャピラリー電気泳動では、管の内部に試料を注入し、電流をかけることで試料中のイオンを移動させます。イオンの移動速度は電荷と粒径に依存するため、管の出口でイオンを検出し、その流出時間から質量や構造を推測することができます。

実験手順

キャピラリー電気泳動の手順は大まかに以下のような工程を経ます。

  1. キャピラリーにバッファ液を充填します。
  2. 試料注入端に試料を置き、電気的または圧力的な手段で微量の試料をキャピラリーに注入します。
  3. 電流を通し、試料中のイオンを電場により移動させます。
  4. 検出器を用いて蛍光や紫外吸収等の物理的な変化を検出します。

バッファ液の選択、試料注入の手法、電流等のパラメータ設定は試料の性質により最適化されます。

具体的な計算例

以下にキャピラリー電気泳動におけるイオンの移動速度を計算する例を示します。

例えば、電場強度Eが10000V/cm、電荷qが1.6×10^-19C、抵抗fが4.62×10^-8Ns/m^2のときのナトリウムイオン(Na+)の電気移動度は次のように計算されます。

V = Eq / f
  = 10000 × 1.6×10^-19 / 4.62×10^-8
  = 3.46×10^-4 cm/s

この計算にはナトリウムイオンの電荷と抵抗が使われており、同じ電場下でも他のイオン種では異なる速度で移動することが分かります。

機器の構成

キャピラリー電気泳動の主な構成要素は、電圧供給装置、キャピラリー、検出器から構成されます。電流は電極から供給され、キャピラリーは両端が電極に接続されています。

特徴

キャピラリー電気泳動は以下のような特徴を持ちます。

  • キャピラリー管の細さにより、高速かつ高解像度の分析が可能であり、試料消費量も少ない。
  • イオン性物質だけでなく、非イオン性物質の分析も可能。
  • 薬物や環境汚染物質等、広範にわたる物質の分析が可能。

関連する概念や用語との比較

高速液体クロマトグラフィ(HPLC)とキャピラリー電気泳動の最大の違いは分離メカニズムです。HPLCは試料を固定相と移動相との相互作用の違いによって分離しますが、キャピラリー電気泳動は電場中のイオンの移動速度の違いによって分離します。

また、キャピラリー電気泳動は、従来のゲル電気泳動と比較して、より高速で、ナノリットルオーダーの微小なサンプルで実施できる点が異なります。

歴史と経緯

電気泳動は20世紀初頭に発見されましたが、キャピラリー電気泳動が開発されたのは1980年代で、これにより試料の分離速度と分離度が大幅に向上しました。

問題点と課題とその対策

キャピラリー電気泳動の問題点としては、試料の注入量が少ないため感度が低く、また各種バッファー溶液の選択や操作技術により分析結果が大きく変わるため、再現性や比較性に問題があるという点が挙げられます。

これらの問題を解決するためには、機器の改良や操作技術の向上、分析条件の標準化等が必要となります。

応用

以上述べたように、キャピラリー電気泳動は医薬品の品質管理や環境調査など、広範囲にわたって活用されています。特に構造が異なるか同一かを迅速に判定することが可能なため、合成化学や物質開発の原初的なフェーズで利用されることが多いです。

参考書籍

バイオ実験基本セット

バイオ実験イラストレイテッド

生命科学基礎セット

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