ユビキチン化とは、ユビキチンという小型のタンパク質が他のタンパク質に結合してその働きや運命あるいは機能を変えることを意味します。これは生体内に広く見られるメカニズムで、タンパク質の分解等を中心に散見されます。
反応機序
ユビキチンはタンパク質分解のマーカーとして機能します。タンパク質がユビキチン化されると、そのタンパク質はプロテアソームで分解されます。プロテアソームはタンパク質分解の主要な機構の一つで、ユビキチン化されたタンパク質を認識し分解します。
タンパク質のユビキチン化にはE1, E2, E3と呼ばれる3種類の酵素が携わり、この順にユビキチンが伝達されます。ユビキチンは、最初にE1に結合し、次にE2に転移し、最後にE3によりタンパク質に結合します。E3がタンパク質とユビキチンを直接繋げる役割を果たすため、E3はユビキチン化の標的特異性を決定する重要な要素と考えられています。
構造と標的
ユビキチンは76アミノ酸から構成される小型のタンパク質で、複数のユビキチンがタンパク質に結合します。
ユビキチンの結合はタンパク質分子内の特定のリシンの側鎖アミノ基上に形成されます。
結合はユビキチン側鎖末端のグリシン残基とリシン残基のカルボキシル基との間のペプチド結合であり、ユビキチン化タンパク質は結合の総数と結合配置により異なる宿命を持ちます。
名称の由来
ユビキチン化という名称は、Ubiquitinというタンパク質の名前に由来しています。Ubiquitinはubiquitous すなわち 遍在するという意味を持つことから、遍在性タンパク質の名称として用いられています。
ヒストンのユビキチン化
ヒストンは、DNAをコンパクトに折りたたむ役割を果たすタンパク質で、ヒストンのユビキチン化は染色体の構造と機能を調節します。
ヒストンのユビキチン化も特定のリシン残基に局在し、これによりヒストンとDNAとの相互作用が調節されます。
ヒストンのユビキチン化は、細胞周期の進行、遺伝子の発現、DNA損傷応答など、細胞のさまざまな機能に関与しています。
歴史や経緯
1990年代になって、ユビキチン-プロテアソーム経路がタンパク質分解の主要な経路であることが確立されました。
2000年代には、ユビキチン化が細胞のさまざまな機能と深く結びついていることが明らかにされました。
疾患との関連
ユビキチン-プロテアソームシステムの異常は、神経変性疾患、悪性腫瘍、免疫不全症候群など多くの疾患に関連しています。
したがって、ユビキチン化の研究は、これらの病態理解や新たな治療法の開発に対する期待が寄せられています。
しかし、ユビキチン-プロテアソームシステムは広範で複雑であるため、その詳細な制御メカニズムの解明はまだ困難な課題となっています。
参考書籍
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- バイオ実験超基本Q&A―意外に知らない、いまさら聞けない
バイオ実験イラストレイテッド
- バイオ実験イラストレイテッド〈1〉分子生物学実験の基礎 (細胞工学別冊 目で見る実験ノートシリーズ)
- バイオ実験イラストレイテッド②
- バイオ実験イラストレイテッド〈3+〉本当にふえるPCR (目で見る実験ノートシリーズ)
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- バイオ実験イラストレイテッド〈5〉タンパクなんてこわくない (目で見る実験ノートシリーズ)
- バイオ実験イラストレイテッド⑥
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