【生命科学】逆転写酵素【用語解説】

生命科学

逆転写酵素

逆転写酵素(Reverse Transcriptase)は、RNAを鋳型としてDNAを合成する酵素で、Retrovirus(レトロウイルス)などのゲノムにコードされています。RNADNAに変換する手順(=逆転写)は生命の中心的な原理であるセントラルドグマ(central dogma)の例外的なフローであり、この活性は生物の遺伝情報を解析するための多くの実験手法に応用されています。またこの活性は、生物が進化する過程において重要な役割を果たしていると考えられています。

正式名称および別名

逆転写酵素は、RNA依存性 DNAポリメラーゼRNA-dependent DNA polymerase)とも呼ばれます。

構造およびメカニズム

逆転写酵素は一般的に、ドメイン構造を持っていて、そのうち少なくとも2つのドメインが重要な機能を果たしています。一つは逆転写RNaseH活性)、もう一つは核酸分解活性を有する(RNaseH)ドメインです。

RNaseH

RNaseHは、RNADNAがハイブリッドを形成している部分だけに特異的に作用するヌクレアーゼです。逆転写酵素の活性と協調して動き、RNA鋳型を分解しながらDNAの新鎖を合成します。

SuperScript

SuperScriptはInvitrogen社によって販売されている逆転写酵素の製品名の一つで、特にcDNA合成において優れた効率と精度を持っています。これは、ヒトの免疫不全ウイルス(HIV)から導出された逆転写酵素を元にして改良されています。

実験手順

逆転写酵素を利用した一般的な実験手順は、RNAを抽出し、そのRNAを鋳型としてcDNAを合成する工程を経ます。具体的な手続きは以下の通りです。

  • 1. 特定のRNAを抽出する。
  • 2. プライマーと逆転写酵素、そしてdNTPsを加え、反応液を作成する。
  • 3. 反応液を37℃等で1時間程度インキュベートし、RNAをcDNAに変換する。
  • 4. 逆転写反応を終えたら、逆転写酵素を失活させるために、反応液を一定時間95℃に加熱する。

問題点や課題とその対応策

逆転写酵素の一つの問題点として、酵素の活性が不安定であるため、時間経過とともに活性を失ってしまう点が挙げられます。これに対応するためには、反応液の新鮮な調製や適切な温度での保存が必要となります。また、RNA細胞内での濃度が低いため、一部のRNAの解析が困難である点も課題です。この問題に対しては、PCRなどの増幅技術を併用することで問題を克服できます。

応用

逆転写酵素は、遺伝的多様性や進化、ウイルスの生理学などの研究分野で広く使用されています。細胞の特異的な発現パターンを調べるためにRT-PCRRNA-seqなどの技術でも利用されます。また、逆転写酵素自体もHIVの複製に重要な役割を果たすため、抗レトロウイルス薬の開発にも利用されています。

参考書籍

バイオ実験基本セット

バイオ実験イラストレイテッド

生命科学基礎セット

生命科学用語解説
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