Dithiothreitol(DTT)は、生化学および分子生物学の研究で頻繁に使用される強力な還元剤です。この記事では、DTTの化学的性質、主要な用途、および実験実施時の注意点について解説します。
参考書籍
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DTTの化学的性質
DTTは、化学式C4H10O2S2で表され、しばしば「ジチオトレイト」とも呼ばれます。この有機化合物は、硫黄(S)と酸素(O)を含む構造を持ち、ジチオール(二つの硫黄原子が結合した基)と、プロパンジオール(二つのプロパン基にジオールが結合した構造)から構成されています。
以下は、DTTの主な化学的性質です。
- 臭気: DTTは強い硫黄臭を持つ揮発性の化合物であり(4℃等の低温や低濃度であればそこまで匂わない)、その臭気は特に高濃度で感知されます。
- 水に溶解性: DTTは水によく溶解し、水性溶液として使用されます。これにより、生化学的実験や分子生物学実験において広く利用されています。
- 強力な還元剤: DTTはジスルフィド結合(S-S結合)を切断し、単離されたシステイン残基を生成する強力な還元剤として機能します。これはタンパク質の還元や、酵素活性の維持に役立ちます。
DTTの主要な用途
- タンパク質還元: DTTは、タンパク質のジスルフィド結合を切断し、タンパク質を還元状態に戻すために使用されます。これにより、タンパク質の立体構造を保ち、タンパク質の変性や凝集を防ぎます。タンパク質の還元は、電気泳動(SDS-PAGE等)やWestern blottingなどの実験で一般的です。
- ジスルフィド結合の切断: DTTはジスルフィド結合を効果的に切断するため、タンパク質の部分的な分解や構造解析にも使用されます。これは、タンパク質のペプチドフィンガープリントの決定や質量分析に必要なステップです。
- 分子生物学実験: 分子生物学実験において、DTTはDNAやRNAの抽出、PCR、制限酵素反応、およびリガーゼ反応など、多くの実験プロトコルで使用されます。DTTの存在下で、核酸の変性や切断を防ぎ、反応の効率を高めます。
- 細胞培養: 細胞培養において、DTTは細胞の生存や増殖をサポートし、細胞培養環境を最適化するのに役立ちます。また、細胞の凍結保存時に細胞の質を維持するためにも使用されます。
- 医薬品製造: DTTは一部の医薬品の製造において還元剤として使用されます。特に、シスプラチンなどの複雑な有機金属錯体の合成において、DTTは不可欠な役割を果たします。
DTTの注意点
- 有害性: DTTは高濃度で摂取した場合に有害とされており、皮膚や眼への接触、吸入に対する注意が必要です。適切な取り扱いと安全対策が必要です。
- 臭気: DTTは強い硫黄臭を持つため、閉じられた場所での取り扱い時には十分な換気が必要です。
- 酸との不安定性: DTTは酸と反応し、不安定になることがあります。取り扱い時には中性またはアルカリ性条件を維持することが重要です。
まとめ
Dithiothreitol(DTT)は、生化学、分子生物学、医薬品製造など多くの分野で幅広く使用される強力な還元剤です。ジスルフィド結合の切断やタンパク質の還元において重要な役割を果たし、実験の成功に不可欠な化学物質の一つです。しかし、その有害性や強烈な臭気に対する注意が必要であり、適切な取り扱いが求められます。
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