【生命科学】形質転換【用語解説】

生命科学

形質転換(Transformation)とは、細胞外から遺伝情報(DNA)を受け取り、その情報を自身の遺伝物質(ゲノム等)に組み込む、あるいは、プラスミド等の形態で保有することによって、細胞形質が転換(変化)する現象を指します。分子生物学の実験では、目的のDNA断片を用意し、それを細胞に取り込ませることで形質転換をしばしば行います。

形質転換の手順

形質転換の具体的な手順は、対象となる生物種や実験条件により異なりますが、細胞に外来DNAを導入するための代表的な方法として、ヒートショック法エレクトロポレーション法があります。

ヒートショック法

ヒートショック法は、細胞に外来のDNAを取り込ませるための方法の一つで、細胞を一時的に高温にさらすことで細胞膜の透過性を上げ、DNAを取り込ませるというものです。

具体的な手順は以下のとおりです。

  • 1. 細胞DNAを37℃などでインキュベート(保温)します。次のステップで膜透過性とDNAの取り込みを促進するため、培養液に適量のCa2+を加えることもあります。あるいはその状態で-80℃に保存することもあり、それをコンピテントセル等と呼びます。
  • 2. 培養液を急激に高温(42℃/1分等)にさらします。これにより細胞膜が一時的に透過性が上がり、DNA細胞内に取り込まれます。
  • 3. 新たに取り込んだDNA細胞内で機能するための恒温(37℃/1-2時間等)で再びインキュベートします。この間に選択マーカとして導入した薬剤耐性遺伝子から薬剤耐性化に必要なタンパクが発現します。

エレクトロポレーション法

エレクトロポレーションは、電気的なパルスを細胞に短時間かけることにより、細胞膜に一時的な穴(ポア)を開け、そこからDNAを取り込む方法です。

具体的な手順は以下のとおりです。

  • 1. 適切なバッファーで細胞DNAを混ぜ、エレクトロポレーションキュベットと呼ばれる小さな容器に入れます。
  • 2. 電気パルスを短時間だけ適用します。これにより細胞膜に一時的な穴が開き、DNA細胞内に侵入します。
  • 3. この後、適切な溶液で細胞を培養して回復させ、新たに取り込んだDNAが安定して機能するまでインキュベートします。

形質転換の確認

形質転換がうまく行われたか否かの判定は、取り込まれたDNAにコードされる形質(抗生物質耐性や蛍光色素産生など)によりもたらされる現象を観察することで確認できます。

例えば、形質転換で導入したDNAに抗生物質耐性の遺伝子が含まれている場合、以下の手順で形質転換が生じた細胞のみを選択できます。

  • 1. 形質転換のプロセスを経た細胞集団を抗生物質を含む寒天培地に塗布します。
  • 2. 培養後、抗生物質耐性の遺伝子がうまく導入されていれば、細胞は抗生物質の存在する培地でも生存・増殖できるため、形質転換が生じた細胞が選択されたことになります。

なお、感度を改善するためにPCR法を使って、導入したDNAに特異的なプライマーを用いて増幅し、形質転換が実際に起こったかどうかをより直接的に確認することもあります。

形質転換と肺炎球菌

形質転換肺炎球菌Streptococcus pneumoniae)で初めて発見され、遺伝学における重要な進展でした。

1928年、フレデリック・グリフィスは、肺炎球菌の実験を通して、死んだ病原性菌株から非病原性菌株が病原性を獲得する現象を発見しました。これは「形質転換の原理」として知られ、DNAが遺伝情報の担い手であることを示唆する重要な証拠となりました。

肺炎球菌は、この基本的な遺伝学的なメカニズムの研究において、モデル生物として使用されています。

参考書籍

バイオ実験基本セット

バイオ実験イラストレイテッド

生命科学基礎セット

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