【生命科学】ウエスタンブロッティング【用語解説】

生命科学

ウエスタンブロッティング(Western blotting)は、タンパク質の同定、定量、および分析に広く使用される分子生物学の実験手法です。この技術は、目的タンパク質に対する特定の抗体による目的タンパク質の検出と、SDS-PAGEと組み合わせてタンパク質を分離する能力に基づいています。以下で、ウエスタンブロッティングの原理、手法、応用について詳しく説明します。

参考書籍

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  • バイオ実験イラストレイテッド〈1〉分子生物学実験の基礎 (細胞工学別冊 目で見る実験ノートシリーズ)
  • これからはじめる人のためのバイオ実験基本ガイド (KS生命科学専門書)
  • イラストでみる超基本バイオ実験ノート―ぜひ覚えておきたい分子生物学実験の準備と基本操作 (無敵のバイオテクニカルシリーズ)
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  • バイオ実験法&必須データポケットマニュアル―ラボですぐに使える基本操作といつでも役立つ重要データ
  • バイオ実験超基本Q&A―意外に知らない、いまさら聞けない

ウエスタンブロッティングの参考書

  • バイオ実験イラストレイテッド⑤

ウエスタンブロッティングの原理

ウエスタンブロッティングは、特定のタンパク質抗体を用いて検出する手法です。以下にその主要な原理を説明します。

タンパク質の分離

まず、生物学的サンプルからタンパク質を分離するために、SDS-PAGE(Sodium Dodecyl Sulfate Polyacrylamide Gel Electrophoresis)を使用します。この過程で、タンパク質は分子量に応じてゲル内で分離されます。

転送 (ブロッティング)

ゲル上のタンパク質バンドは、ニトロセルロースまたはポリビニルジフルオライド(PVDF)などの膜に転送(ブロッティング)されます。この転送プロセスは、電気泳動と同じ原理に基づいており、タンパク質が膜上に転送されます。

SDSではゲルの上部から下部へタンパクが移動するような方向に電圧をかけていたところ、ブロッティングのプロセスではゲルに膜を重ねて、タンパクがゲルから飛び出して膜側に移動するように電圧をかけるということです。

なお、なぜゲルから膜へタンパク質を転送する(写しとる)かについては、下記の抗体による検出が膜上でないと出来ないからです。

抗体による検出

膜へ転送されたタンパク質を特定の抗体で検出します。抗体は、目的のタンパク質に特異的に結合するため、ウエスタンブロッティングではターゲットタンパク質の検出と同定が可能です。SDS-PAGEでは全てのタンパクが染色されてしまうところ、ウエスタンブロッティングでは目的のタンパクのみが検出できるということです。

なお、目的タンパクへ特異的に結合する抗体については、ヒトマウスなどの良く解析される一部のタンパクについては業者から購入することで用意します。

もし販売されていなければ、まず目的タンパク質を精製し、ウサギ等の動物に投与します。その後ウサギの体内の免疫系にて投与したタンパクに対する抗体が出来ている時期を見計らってウサギの血清を抽出します。更にここから血清に含まれる抗体以外の共雑物を除去し、抗体を用意することになります。

このプロセスは大変ですが、これが出来ないとウエスタンブロッティングは出来ません。

イメージング

最後に、抗体に結合したタンパク質を視覚化するために、化学発光やカラーレアクションを利用した方法が一般的に使用されます。これにより、特定のバンドが膜上で検出され、ターゲットタンパク質の存在と量が評価されます。

ウエスタンブロッティングの手法

ウエスタンブロッティング手法は以下のステップで実行されます。

サンプルの調製

タンパク質抽出とSDS-PAGEの手法と同様に、サンプルを準備します。サンプルは通常、タンパク質抽出バッファーによってタンパク質が変性され、SDS-PAGE用の試料として用意されます。

SDS-PAGEによる分離

SDS-PAGEを実行し、タンパク質を分離します。ゲル上でタンパク質バンドが形成されます。

転送(ブロッティング)

分離されたタンパク質は、ニトロセルロースまたはPVDF膜に電気泳動によって転送されます。これにより、膜上にタンパク質が移されます。

ブロッティングにはセミドライと呼ばれる方法や完全にバッファー中で行われる方法がありますが、これは扱っているタンパクによって検討して決めます。

抗体による検出

スキムミルク等でタンパクが転送された膜の何も無い部分をコーティングします。これは抗体の膜への非特異的な結合を防ぐために行われます。

次に、特定のターゲットタンパク質を検出するための抗体を加えます。抗体は通常、特異的な結合を示し、ターゲットタンパク質に結合します。

このままでは検出が出来ないので、先ほどの抗体(1次抗体)に結合する抗体(2次抗体)を加えます。2次抗体タンパクに対して特異的である必要はなく、1次抗体に結合しさえすればよい、すなわちIgGへ結合ができれば問題ありません。

なお、2次抗体には化学修飾により別の酵素等が結合しています。以下のように検出のために結合されています。

イメージング

抗体に結合したターゲットタンパク質は、発光反応やカラーレアクションによって視覚化されます。

2次抗体に結合している酵素の基質を膜に触れさせることで、酵素反応の際に放出される化学発光を専用の装置で検出します(写真を撮るイメージ)。

このステップにより、タンパク質の存在と量が評価されます。

ウエスタンブロッティングの応用

ウエスタンブロッティングは、多くの生物学的および生化学的研究で幅広く応用されています。以下はその主要な応用分野です。

タンパク質同定

ウエスタンブロッティングは、ターゲットタンパク質の同定に使用され、特定の抗体を用いて目的のタンパク質を特定できます。

タンパク質定量

ウエスタンブロッティングは、タンパク質の量を定量的に測定するためにも使用されます。ターゲットタンパク質のバンド強度は、量的情報を提供します。

例えば、野生型の細胞と変異型の細胞の間で目的タンパク質の産生量が変化したか等を調べます。なお、その際に目的タンパク質を既知の量、例えば5ngなど加えて比較用に用意しておくと、より定量に対する考察が深まります。

タンパク質相互作用の解析

ウエスタンブロッティングは、タンパク質間の相互作用の解析にも利用され、ターゲットタンパク質と結合する他のタンパク質を同定するのに役立ちます。

細胞シグナル伝達研究

タンパク質のリン酸化状態や発現パターンを調査するために、細胞シグナル伝達研究に広く使用されます。

リン酸化されることで分子量が増加し、検出されるバンドの位置が上昇することを利用します。

まとめ

ウエスタンブロッティングは、タンパク質の分析、同定、定量に不可欠な実験手法であり、分子生物学研究において広く利用されています。この技術を適切に実施することで、タンパク質に関する貴重な情報を取得できます。

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