【#2】肺炎球菌特異的な薬剤感受性の仕組み(2)

業績解説

現在の私の研究: qmer法/翻訳速度ベクトルの礎となった、研究について紹介します。この記事では特に修士課程の研究(以下の論文)について説明します。学部4年時代の研究についてはこちら

Shoji, T., Takaya, A., Sato, Y., Kimura, S., Suzuki, T., & Yamamoto, T. (2015). RlmCD-mediated U747 methylation promotes efficient G748 methylation by methyltransferase RlmAII in 23S rRNA in Streptococcus pneumoniae; interplay between two rRNA methylations responsible for telithromycin susceptibility. Nucleic acids research43(18), 8964-8972.

研究の背景

学部4年生の研究により、肺炎球菌抗生物質:テリスロマイシン(TEL)がよく効く理由として、23S リボソームRNA 748番目のグアニン (23S rRNA G748) のメチル化が重要であることが分かりました。しかしながら、肺炎球菌にとっての役割は不明なままでした。

そこで「23S rRNAメチル化の生理的意義」としてテーマを掲げ、大学院で研究を続けることにしました。

G748メチル化以外による薬剤感受性の検討へ

とはいえ、rRNA修飾酵素の欠損は明瞭な表現型を示さないことが多く、結果が出ずに修士課程が過ぎ去ってしまうという心配がありました。

そこで、大腸菌ではG748周辺に747番目のウラシル(U747)のメチル化などの複数の修飾があることに着目し、肺炎球菌においてもG748周辺に修飾が存在して、それら複数の修飾がまとまって機能を発揮している可能性を考えました。

周辺の修飾は、構造的に考えてTEL結合部位と近いため、TEL結合に関わっている可能性が高いと思われます。よって、まずはG748メチル化以外の修飾が肺炎球菌にも存在し、それらがTEL感受性に関わっているか検討することにしました。

U747メチル化酵素を同定

大腸菌ではU747はRlmCという酵素によってメチル化されます。そこでBLASTを用いてRlmCのホモログ肺炎球菌ゲノムから検索したところ、下図上部左の表の通りSP_1901SP_1029と言う名前の遺伝子がヒットしました。ただ、これら2つの遺伝子大腸菌のRlmDという別の場所をメチル化する酵素ホモログでもありました。

どちらがU747メチル化に関わるか調べるため、各遺伝子の二重相同組換えを利用して欠損株を作成し、野生株または欠損株からリボソームRNAを抽出してLC/MS-MSによる質量分析メチル化の有無を調べました。

その結果、野生型ではU747はメチル化されていることがまず明らかになりました(下図)。また、SP_1029欠損株ではU747はメチル化されていないことも分かりました(下図)。そこで、該当の遺伝子SP_1029を大腸菌との相同性に因んでRlmCDと名付けました。

感受性には関わっていたが…

続いて、RlmCD欠損株のTEL感受性を早速調べました。すると、野生株より低いTEL感受性を呈しました(右表)。

これで表現型を1つ得ることが出来、一安心となりました。

しかしながら、RlmCDによるU747のメチル化のメチル基は、TEL結合部位と真逆をむいていました(右図)。

そこで、直接TELの結合に関わるとは考えにくいと思われました。

RlmCDはRlmAIIを介してTEL感受性に関わる

直接的に関わらないとすれば、既にTEL結合に関わっていると証明したG748メチル化を介してTEL感受性に関わる可能性が考えられます。

RlmCD欠損株のG748のメチル化を調べたところ、半分程度のメチル化が生じていました(右図)。G748メチル化を調べるための実験原理はこちらの記事を参照ください。

そこで、RlmCDがRlmAIIによるメチル化を介してTEL感受性に関わることを検討するために、RlmCD欠損株にRlmAIIプラスミドで導入したところ、RlmCD欠損株のG748メチル化は回復し、野生型と同程度のTEL感受性になりました(右上図)。

以上より、RlmCDはRlmAIIによるメチル化を促進し、これを介してTEL感受性に関わることが示唆されました。

RlmCDはRlmAII量に影響しない

では、どのような機序でRlmCDがRlmAIIによるメチル化を促進しているのでしょうか。

その理由を検討するため、RlmCD欠損株でRlmAIIタンパク量をウエスタンブロッティングによって調べた結果、いずれも野生株と同程度でした(下図)。

RlmCDはRlmAIIの基質認識を促進する

そこで、野生型およびRlmCD欠損株からリボソームRNAを抽出し、精製したRlmAIIを加えて、in vitroメチル化反応をモニターしたところ、RlmCD欠損株から抽出した基質に対してはRlmAIIによるメチル化の効率が悪く、より多くのRlmAII存在下でなければ野生型から抽出した基質に対するメチル化は生じないことが分かりました。

更に、様々な酵素濃度に対するメチル化の時間変化を調べたところ、酵素反応測度論の観点から、RlmCDによるU747メチル化はRlmAII基質認識を促進することが証明できました。

総括

以上より、B4までの結果と合わせて、肺炎球菌ではRlmCDとそれに続くRlmAIIによるメチル化がTEL感受性に関わることが示されました。

rRNAメチル化に別のメチル化が必要であることは世界で初めての発見であり、リボソームの組み立てが厳密になされていることを示唆する結果にもなりました。

これにより、私は修士論文発表で全学中から最優秀発表として選ばれました。また、日本学生支援機構からの奨学金が返済不要となりました。そして、以下の通り論文として報告しました。更に日本学術振興会のDC1研究員として採択されることにもなりました。

Shoji, T., Takaya, A., Sato, Y., Kimura, S., Suzuki, T., & Yamamoto, T. (2015). RlmCD-mediated U747 methylation promotes efficient G748 methylation by methyltransferase RlmAII in 23S rRNA in Streptococcus pneumoniae; interplay between two rRNA methylations responsible for telithromycin susceptibility. Nucleic acids research43(18), 8964-8972.

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