遺伝子のノックインとノックアウトは、生物学において遺伝子機能を研究するための実験手法の一つです。
遺伝子のノックイン
定義
遺伝子のノックインとは、目的とする遺伝子をゲノム上の特定の位置に導入する技術のことを指します。これにより、細胞がその遺伝子を発現するように設計することが可能となります。
原理
遺伝子のノックインは相同組換えを利用して行います。相同組換えは、細胞のDNA修復機構の一つで、DNAの一部が欠損した際に同一または非常に類似した配列のDNAと照らし合わせて修復する機能のことです。
遺伝子のノックインではまず、目的とする遺伝子の両端の配列でノックインしたい配列を挟んだDNA断片を人工的に生成します。そして、このDNA断片を導入した細胞に対してDNA損傷を誘導し、相同組換えによりDNAが修復される過程で人工的に生成したDNA断片が細胞のDNAに組み込まれます。
特徴・具体例
遺伝子のノックインは、遺伝子を特定の位置に導入することが可能なため、遺伝子の発現を正確に制御することができます。これにより、たとえば特定の細胞器官でのみ遺伝子が発現するようにすることや、特定のタイミングで遺伝子を発現させるなど、様々な研究が可能となります。また、異なる生物種間で遺伝子を導入するトランスジェニック研究にもよく用いられます。
遺伝子のノックアウト
定義
遺伝子のノックアウトとは、目的の遺伝子の機能を失わせる技術のことを指します。これにより、その遺伝子が細胞や生物の生命活動にどのような影響を与えるのかを調べることが可能になります。
原理
遺伝子のノックアウトもノックインと同様に相同組換えを利用して行います。ノックアウトを行う際のDNA断片は、目的とする遺伝子の一部または全部を欠損させたものを人工的に生成します。このDNA断片を導入した細胞に対してDNA損傷を誘導し、相同組換えによりDNAが修復される過程で人工的に生成したDNA断片が細胞のDNAに組み込まれます。組み込まれたDNA配列は機能しない遺伝子配列であるため、ノックアウトが実現されます。ます。
特徴・具体例
遺伝子のノックアウトは、特定の遺伝子が生物の生命活動に与える影響を明らかにするための有力な手法です。疾患モデルの作製にも利用されており、特定の遺伝子をノックアウトすることでその遺伝子が引き起こす疾患症状を生物に再現し、研究することが可能となります。
参考書籍
バイオ実験基本セット
- これからはじめる人のためのバイオ実験基本ガイド (KS生命科学専門書)
- イラストでみる超基本バイオ実験ノート―ぜひ覚えておきたい分子生物学実験の準備と基本操作 (無敵のバイオテクニカルシリーズ)
- 改訂 バイオ試薬調製ポケットマニュアル〜欲しい試薬がすぐにつくれる基本操作と注意・ポイント
- バイオ実験法&必須データポケットマニュアル―ラボですぐに使える基本操作といつでも役立つ重要データ
- バイオ実験超基本Q&A―意外に知らない、いまさら聞けない
バイオ実験イラストレイテッド
- バイオ実験イラストレイテッド〈1〉分子生物学実験の基礎 (細胞工学別冊 目で見る実験ノートシリーズ)
- バイオ実験イラストレイテッド②
- バイオ実験イラストレイテッド〈3+〉本当にふえるPCR (目で見る実験ノートシリーズ)
- バイオ実験イラストレイテッド④
- バイオ実験イラストレイテッド〈5〉タンパクなんてこわくない (目で見る実験ノートシリーズ)
- バイオ実験イラストレイテッド⑥
- バイオ実験イラストレイテッド⑦
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