1. 和空間
(1) 和空間の定義
定義8.1: 和空間
和空間とは、2つの部分空間 $U, V$ に対して
$$
U + V = \{\, u + v \mid u \in U,\ v \in V \,\}
$$
で定義される集合です。
注意:$U+V$ は $U \cup V$(集合の和集合)ではありません。
(2) ベクトル空間に関する定理(1):和空間は部分空間
定理8.2: 和空間は部分空間
和空間は部分空間である。
証明をみる
$U, V$ はともにベクトル空間 $W$ の部分空間とする。$u, u’ \in U$, $v, v’ \in V$, $k, k’ \in \mathbb{R}$ とすると、 $$ k(u+v) + k'(u’+v’) = (ku + k’u’) + (kv + k’v’) $$ ここで $ku+k’u’\in U$($U$ は加法・スカラー倍に閉じる)、$kv+k’v’\in V$。
したがって右辺は $U+V$ の元である。よって $U+V$ は部分空間。$\square$
具体例をみる
$U = { (x, y) \in \mathbb{R}^2 \mid y = x }$, $W = { (x, y) \in \mathbb{R}^2 \mid y = 2x }$ とする。$U+W$ の任意の元は $(a, a) + (b, 2b) = (a+b, a+2b)$ の形。
$(p,q)\in\mathbb{R}^2$ に対して $a=q-2p$, $b=p-(q-2p)=3p-q$ と取れば $(a+b, a+2b)=(p,q)$ が得られる。
よって $U+W=\mathbb{R}^2$。
2. 共通部分
(1) 共通部分の定義
定義8.3: 共通部分
$U$と$V$の共通部分$U \cap V$は以下。
$$
U \cap V = \{\, x \mid x \in U\ \text{かつ}\ x \in V \,\}
$$
(1) ベクトル空間に関する定理(2):共通部分は部分空間
定理8.4: 共通部分は部分空間
共通部分も部分空間である。
証明をみる
$w,w’\in U\cap V$, $k,k’\in\mathbb{R}$ とする。$w,w’$ はともに $U$ かつ $V$ の元なので、$kw+k’w’\in U$ かつ $kw+k’w’\in V$。
したがって $kw+k’w’\in U\cap V$。$\square$
具体例をみる
$U=\{(x,y,0)\mid x,y\in\mathbb{R}\}$,$W=\{(0,y,z)\mid y,z\in\mathbb{R}\}$。共通部分は $(0,y,0)$ の形のベクトル全体で、 $$ U\cap W=\{(0,y,0)\mid y\in\mathbb{R}\}. $$
(2) ベクトル空間に関する定理(3):次元に関する包除の定理
定理8.5: 次元に関する包除の定理
$$
\dim(U+V)=\dim U+\dim V-\dim(U\cap V).
$$
証明をみる
$U\cap V$ の基底を ${w_1,\dots,w_r}$ とする($r=\dim(U\cap V)$)。これを $U$ の基底に延長して ${w_1,\dots,w_r,u_{r+1},\dots,u_m}$($m=\dim U$)、 $V$ の基底に延長して ${w_1,\dots,w_r,v_{r+1},\dots,v_n}$($n=\dim V$)を得る。
主張:集合 $$ \mathcal{B}=\{\,w_1,\dots,w_r,\ u_{r+1},\dots,u_m,\ v_{r+1},\dots,v_n\,\} $$ は $U+V$ を張る。実際、任意の $x\in U+V$ は $x=u+v$($u\in U$, $v\in V$)と書け、 $u$ は $w$ と $u$ の基底の線形結合、$v$ は $w$ と $v$ の基底の線形結合で表せるため $x$ は $\mathcal{B}$ の線形結合で表せる。
さらに $\mathcal{B}$ の中で $w$ たちを重複して数えていないので、$\mathcal{B}$ の大きさは $$ r+(m-r)+(n-r)=m+n-r. $$ この $\mathcal{B}$ は $U+V$ を張る生成系であり、実際、$w$ と $u$ 群、$v$ 群の間に $U\cap V$ 以外の重なりはないため、この数が $\dim(U+V)$ に等しい(不要なベクトルがあれば削っても次元はこの値を超えない)。ゆえに $\dim(U+V)=m+n-r=\dim U+\dim V-\dim(U\cap V)$。$\square$
3. 直和
定義8.6: 直和
$U \cap V={\mathbf{0}}$ のとき、$U+V$ を $U$ と $V$ の直和といい、
$$
U\oplus V
$$
と表す($\emptyset$ ではなく ${\mathbf{0}}$ に注意)。
4. 補空間
定義8.7: 補空間
$U\oplus V$ の関係にあるとき、$U$ を $V$ の補空間、$V$ を $U$ の補空間という。
5. 直交補空間
(1) 直交補空間の定義
定義8.8: 直交補空間
内積空間 $V$ の部分空間 $W$ に対し、直交補空間は
$$
W^\perp=\{\, v\in V \mid \forall w\in W,\ \langle v,w\rangle=0 \,\}.
$$
内積空間については以下の記事を参照して下さい。
(2) ベクトル空間に関する定理(4):直交補空間は部分空間
定理8.9: 直交補空間は部分空間
直交補空間も部分空間である。
証明をみる
$v,v’\in W^\perp$, $k,k’\in\mathbb{R}$ とし任意の $w\in W$ をとると $$ \langle kv+k’v’,\,w\rangle=k\langle v,w\rangle+k’\langle v’,w\rangle=0. $$ よって $kv+k’v’\in W^\perp$。$\square$(3) ベクトル空間に関する定理(5):直交補空間の共通部分
定理8.10: 直交補空間の共通部分
$$
A^\perp\cap B^\perp=(A+B)^\perp.
$$
証明をみる
($\subset$)$x\in A^\perp\cap B^\perp$ とする。任意の $a\in A$, $b\in B$ に対し $\langle x,a+b\rangle=\langle x,a\rangle+\langle x,b\rangle=0+0=0$。ゆえに $x\in(A+B)^\perp$。
($\supset$)$x\in(A+B)^\perp$ とする。$a\in A$ に対し $a=a+0\in A+B$ より $\langle x,a\rangle=0$、同様に $b\in B$ に対し $\langle x,b\rangle=0$。
したがって $x\in A^\perp$ かつ $x\in B^\perp$。両方向ゆえ等号が成り立つ。$\square$
(4) ベクトル空間に関する定理(6):Ker・Im と直交補空間
定理8.11: Ker・Im と直交補空間
$$
\ker A = \big(\mathrm{Im}\,A^{\mathsf T}\big)^\perp
$$
($A$ は線形写像の行列表現,$A^{\mathsf T}$ は転置)。
※ $\mathrm{Ker}$と$\mathrm{Im}$については以下の記事を参照して下さい。
証明をみる
($\subset$)$x\in\ker A$ すなわち $Ax=\mathbf{0}$。任意の $y$ に対し $$ \mathbf{y}^{\mathsf T}A\mathbf{x} = 0 $$ ここで $$ \mathbf{y}^{\mathsf T}A\mathbf{x} =(A^{\mathsf T}y)^{\mathsf T}\mathbf{x} $$ だから $$ (A^{\mathsf T}y)^{\mathsf T}\mathbf{x} = 0 $$ よって $x$ は $\mathrm{Im}\,A^{\mathsf T}$ のすべてのベクトルに直交し、$x\in(\mathrm{Im}\,A^{\mathsf T})^\perp$。($\supset$)$x\in(\mathrm{Im}\,A^{\mathsf T})^\perp$ とする。任意の $y$ に対し、$\mathrm{Im}A^{\mathsf T} = A^{\mathsf T}y$と表せ、これが$x$と直交するから、 $$ (A^{\mathsf T}y)^{\mathsf T}x = 0 $$
$$ (A^{\mathsf T}y)^{\mathsf T}x = y^{\mathsf T} (Ax) $$ となるから、$Ax$が全ての$y$と直交することを意味するので、そのような$Ax$は$0$のみである。従って、$Ax=0$、つまり $x\in\ker A$。両包含より等号。$\square$
6. 直和分解(直交直和)
(1) ベクトル空間に関する定理(7):直和分解
定理8.12: 直和分解
内積空間 $V$ とその部分空間 $W$ に対し
$$
V=W\oplus W^\perp
$$
が成り立つ(有限次元)。つまり、任意の $v\in V$ は一意に $v=w+w^\perp$($w\in W$, $w^\perp\in W^\perp$)と書ける。
このように部分空間とその直交補空間に分割することを直和分解という。
このように部分空間とその直交補空間に分割することを直和分解という。
内積空間については以下の記事を参照して下さい。
7. 商空間
(1) 同値関係の定義
定義8.13: 同値関係
定義(反射・対称・推移を具体的に):集合 $X$ 上の二項関係 $\sim$ が
- 反射律:$\forall x\in X,\ x\sim x$
- 対称律:$\forall x,y\in X,\ x\sim y \Rightarrow y\sim x$
- 推移律:$\forall x,y,z\in X,\ x\sim y\ \&\ y\sim z \Rightarrow x\sim z$
(2) ベクトル空間に関する定理(8):$\mathrm{Ker}$を用いたベクトル空間上の同値関係
定理8.14: ベクトル空間上の同値関係
ベクトル空間 $V, W$ と線形写像 $f:V\to W$ をとり、$\mathbf{v}_1, \mathbf{v}_2 \in V$について、
$$
v_1\sim v_2 \quad\Longleftrightarrow\quad v_1-v_2\in\mathrm{Ker} f
$$
と定めると、$\sim$は同値関係である。
※ $\mathrm{Ker}$については以下の記事を参照して下さい。
※ $\mathrm{Ker}$については以下の記事を参照して下さい。
証明をみる
- 1) 反射律:任意の $v\in V$ で $v-v=\mathbf{0}\in\mathrm{Ker}f$($f(\mathbf{0})=\mathbf{0}$)。よって $v\sim v$。
- 2) 対称律:$v_1\sim v_2$ なら $v_1-v_2\in\mathrm{Ker}f$。$\mathrm{Ker}f$は$V$の部分空間であり、部分空間の要素の(-1)倍、すなわち線形結合は部分空間に属するから$v_2-v_1=-(v_1-v_2)\in\mathrm{Ker}f$。ゆえに $v_2\sim v_1$。
- 3) 推移律:$v_1\sim v_2$ かつ $v_2\sim v_3$ なら $v_1-v_2,\ v_2-v_3\in\mathrm{Ker}f$。$\mathrm{Ker}f$は$V$の部分空間であるから、要素同士の和も$\mathrm{Ker}f$の要素になる、すなわち$(v_1-v_2)+(v_2-v_3)=v_1-v_3\in\ker f$。よって $v_1\sim v_3$。$\square$
(3) 同値類の定義
定義8.15: 同値類
集合$X$ 上に同値関係 $\sim$ が定まっているとき、$x\in X$ を代表元として
$$
[x]=\{\, y\in X \mid y\sim x \,\}
$$
を $x$ の同値類という。
ある要素$x$の同値類$[x]$とは同値関係によって同一視される要素の集合のこと。
$[x]$ は「$x$ と同じ関係で束ねられる要素の全体」で、$X$ を互いに素に分割する「ひとかたまり」の 1 つとも表現できる。
ある要素$x$の同値類$[x]$とは同値関係によって同一視される要素の集合のこと。
$[x]$ は「$x$ と同じ関係で束ねられる要素の全体」で、$X$ を互いに素に分割する「ひとかたまり」の 1 つとも表現できる。
具体例をみる
$V=\mathbb{R}^2$,$f(x,y)=y-x$ とすると $\mathrm{Ker}f=\{(t,t)\mid t\in\mathbb{R}\}$。従って$x_0=(0,1)$ の同値類は $$ \begin{align} [(0,1)] &= \{\, (x,y)\in\mathbb{R}^2 \mid (x,y)-(0,1)=(x,y-1)\in\ker f \,\} \\ &= \{\, (x,y)\mid y-1=x \,\} \\ &= \{(t,t+1)\mid t\in\mathbb{R}\}. \end{align} $$ これは直線 $y=x+1$ 上の点全体である。
(4) 商集合の定義
定義8.16: 商集合
集合$X$上の同値関係 $\sim$ による$X$の商集合$X/\sim$は
$$
X/\sim=\{\, [x]\mid x\in X \,\}
$$
と定義する。商集合は同値類全体からなる集合と解釈できる。
なお、自然な全射 $q:X\to X/\sim$ を $q(x)=[x]$ とおくと、各同値類が $X$ を分割していること(互いに交わらず合併が $X$)がわかる。
なお、自然な全射 $q:X\to X/\sim$ を $q(x)=[x]$ とおくと、各同値類が $X$ を分割していること(互いに交わらず合併が $X$)がわかる。
具体例をみる
上の $f(x,y)=y-x$ の例では、$X/\sim$ は平面上の平行族 $\{\, y=x+c \mid c\in\mathbb{R} \,\}$ の直線 1 本ずつを要素に持つ集合である。(5) 剰余類(コセット)の定義
定義8.17: 剰余類
$V$ をベクトル空間,$W$を$V$の部分空間とする。各 $v\in V$ に対し
$$
v+W:=\{\, v+w \mid w\in W \,\}
$$
を $v$ の 剰余類(コセット) と呼ぶ。
これは$f$を$V$から$W$への写像とし、特に$f(W)=w_0$である場合において、任意の$v_0, v \in V$に対して,ある1つの$w \in W$を用いて定義される同値関係$v \sim v_0 := f(v_0 – v) = w_0$で定義できる集合$\{v \mid v_0 + w, w \in f^{-1}(w_0) = W\}$、すなわち$v_0$の同値類$[v_0]$のことを指す。
$(v_1 – v_2) \in \mathrm{Ker}f$による「$\mathrm{Ker}f$だけ平行移動した集合」を一般化して$(v_1 – v_2) \in W$にした、「部分空間$W$だけ平行移動した集合」とみなすこともできる。
これは$f$を$V$から$W$への写像とし、特に$f(W)=w_0$である場合において、任意の$v_0, v \in V$に対して,ある1つの$w \in W$を用いて定義される同値関係$v \sim v_0 := f(v_0 – v) = w_0$で定義できる集合$\{v \mid v_0 + w, w \in f^{-1}(w_0) = W\}$、すなわち$v_0$の同値類$[v_0]$のことを指す。
$(v_1 – v_2) \in \mathrm{Ker}f$による「$\mathrm{Ker}f$だけ平行移動した集合」を一般化して$(v_1 – v_2) \in W$にした、「部分空間$W$だけ平行移動した集合」とみなすこともできる。
(6) 商空間の定義
定義8.18: 商空間
商空間 $V/W$ は
$$
V/W=\{\, v+W \mid v\in V \,\}
$$
と定義し,演算を
$$
(v+W)+(u+W)=(v+u)+W,\qquad \alpha(v+W)=(\alpha v)+W
$$
と定めた空間である。
これは$V$の$W$による剰余類全体からなる集合と解釈できる。
これは$V$の$W$による剰余類全体からなる集合と解釈できる。
(7) ベクトル空間に関する定理(9):商空間はベクトル空間
定理8.19: 商空間はベクトル空間
$V/W$ はベクトル空間になる。
証明をみる
(0) well-defined(代表元によらない) $v+W=v’+W$ かつ $u+W=u’+W$ とする(すなわち $v’-v\in W$, $u’-u\in W$)。加法:$(v’+u’)-(v+u)=(v’-v)+(u’-u)\in W$($W$ は部分空間)。従って $(v’+u’)+W=(v+u)+W$。
スカラー:$\alpha v’-\alpha v=\alpha(v’-v)\in W$($W$ はスカラー倍に閉じる)。従って $\alpha v’+W=\alpha v+W$。
よって定義は代表元に依らない。
- (1) 加法の交換則:$(v+W)+(u+W)=(v+u)+W=(u+v)+W=(u+W)+(v+W)$。
- (2) 加法の結合則:$\big((v+W)+(u+W)\big)+(t+W)=\big(v+u+t\big)+W=(v+W)+\big((u+W)+(t+W)\big)$。
- (3) 加法単位元の存在:$0+W=W$ が単位。$(v+W)+(0+W)=(v+0)+W=v+W$。
- (4) 加法逆元の存在:$-(v+W)=(-v)+W$。$(v+W)+((-v)+W)=(v-v)+W=W$。
- (5) 分配法則①:$\alpha\big((v+W)+(u+W)\big)=\alpha(v+u)+W=(\alpha v+\alpha u)+W=(\alpha v+W)+(\alpha u+W)$。
- (6) 分配法則②:$(\alpha+\beta)(v+W)=(\alpha v+\beta v)+W=(\alpha v+W)+(\beta v+W)$。
- (7) スカラー倍の結合:$\alpha(\beta(v+W))=\alpha(\beta v)+W=((\alpha\beta)v)+W=(\alpha\beta)(v+W)$。
- (8) スカラー単位:$1\cdot(v+W)=(1\cdot v)+W=v+W$。
(8) ベクトル空間に関する定理(10):商空間の次元
定理8.20: 商空間の次元
線形写像 $f:V\to W$ を考える。核(零空間)を $\mathrm{Ker}\,f=\{v\in V\mid f(v)=0\}$ とすると、商空間 $V/\mathrm{Ker}\,f$ の次元は
$$
\dim(V/\mathrm{Ker}\,f)=\dim V-\dim(\mathrm{Ker}\,f).
$$
剰余類の標準事実ともいう。
証明をみる (第一同型定理を用いる)
-
像への自然な写像を作る: 代表元 $v\in V$ の同値類を $[v]=v+\mathrm{Ker}\,f$ と書く。写像
$$ \varphi:V/\mathrm{Ker}\,f\longrightarrow \mathrm{Im}\,f,\qquad \varphi([v])=f(v) $$を定める。
- 良定義の確認: $[v]=[v’]$ なら $v-v’\in \mathrm{Ker}\,f$、すなわち $f(v-v’)=0$。よって $f(v)=f(v’)$。したがって $\varphi$ は良定義。
-
線形性: $[v_1],[v_2]\in V/\mathrm{Ker}\,f$, $a,b\in\mathbb{F}$ に対し
$$ \varphi(a[v_1]+b[v_2])=\varphi([av_1+bv_2])=f(av1+bv2)=af(v_1)+bf(v_2)=a\varphi([v_1])+b\varphi([v_2]). $$
- 全射: $y\in\mathrm{Im}\,f$ はある $v\in V$ で $y=f(v)$ と書ける。すると $y=\varphi([v])$ なので全射。
- 単射: $\varphi([v])=0$ なら $f(v)=0$、すなわち $v\in\mathrm{Ker}\,f$。したがって $[v]=[0]$。核が自明なので単射。
以上より $\varphi$ は $V/\mathrm{Ker}\,f$ と $\mathrm{Im}\,f$ の同型。ゆえに定理9.9の第一同型定理より
$$
\dim(V/\mathrm{Ker}\,f)=\dim(\mathrm{Im}\,f).
$$
さらに定理9.10の階数・退化度の定理より
$$
\dim V=\dim(\mathrm{Im}\,f)+\dim(\mathrm{Ker}\,f).
$$
これらを合わせると
$$
\dim(V/\mathrm{Ker}\,f)=\dim V-\dim(\mathrm{Ker}\,f).
$$
証明をみる (基底を延長して直接数える)
-
核の基底を取る: $\mathrm{Ker}\,f$ の基底を
$$ \{u_1,\dots,u_r\}\quad(r=\dim(\mathrm{Ker}\,f)) $$とする。
-
それを $V$ の基底へ延長: さらにベクトル $v_{r+1},\dots,v_n$ を加えて
$$ \mathcal{B}=\{u_1,\dots,u_r,\ v_{r+1},\dots,v_n\} $$が $V$ の基底となるように取る($n=\dim V$)。
-
商空間の基底候補: 商空間では核に属するベクトルは $[u_i]=[0]$ になる。よって非自明な同値類は
$$ \{[v_{r+1}],\dots,[v_n]\} $$によって生成されることが期待される。
-
生成性の確認: 任意の $[x]\in V/\mathrm{Ker}\,f$ に対し、$x$ を基底で展開して
$$ x=\sum_{i=1}^{r}\alpha_i u_i+\sum_{j=r+1}^{n}\beta_j v_j $$と書ける。商では $[u_i]=[0]$ なので$$ [x]=\sum_{j=r+1}^{n}\beta_j [v_j]. $$ゆえに $[v_{r+1}],\dots,[v_n]$ は $V/\mathrm{Ker}\,f$ を張る。
-
一次独立性の確認: 係数 $\gamma_{r+1},\dots,\gamma_n$ が
$$ \sum_{j=r+1}^{n}\gamma_j [v_j]=[0] $$を満たすとする。これは$$ \sum_{j=r+1}^{n}\gamma_j v_j\in \mathrm{Ker}\,f $$と同値。したがってある係数 $\delta_1,\dots,\delta_r$ が存在して$$ \sum_{j=r+1}^{n}\gamma_j v_j=\sum_{i=1}^{r}\delta_i u_i. $$両辺を $V$ の基底 $\mathcal{B}$ による表現として比べれば、基底の一次独立性から$$ \gamma_{r+1}=\cdots=\gamma_n=0 $$が従う。よって $\{[v_{r+1}],\dots,[v_n]\}$ は一次独立。
以上により $\{[v_{r+1}],\dots,[v_n]\}$ は $V/\mathrm{Ker}\,f$ の基底で、その本数は $n-r$。ゆえに
$$
\dim(V/\mathrm{Ker}\,f)=n-r=\dim V-\dim(\mathrm{Ker}\,f).
$$
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