【ChEMBL】ダイレクトリプログラミングに必要な非医薬品の組合せを予測【標的タンパクベース】

1細胞マルチオーム法

ダイレクトリプログラミングに必要な医薬品などの組合せを、食品などに含まれる非医薬品の組み合わせで置換する予測手法について説明します。

本記事では特に、ChEMBLというデータベースに掲載されている「化合物の標的タンパク」の情報をベースに置換する方法について説明します。

0. はじめに

本記事は、以下の記事で紹介されている連載の最初の記事に相当します。

1. 導入

目的の細胞種あるいは細胞の状態へiPS細胞を介さずに直接変換する方法をDirect Reprogramming (DR)と言います。

iPS細胞への変換と同じように、DRも転写因子を導入することで当初は検討されてきました。しかし、転写因子の導入は腫瘍化のリスクや実験の労力がかかるというデメリットがあります。そのため、近年ではDRを低分子化合物の組合せで検討した報告が複数あります。

また近年では、文献1のようにDRを若返りに応用する試みも行われています。細胞種は同じですが、老化した状態から若い状態へDRで変換するというアプローチです。

低分子化合物によるDRは次のようなアプローチがあります。

  1. 変換元の細胞から目的の細胞へ変換する転写因子を加えた際の「トランスクリプトーム」の変化を模倣するような低分子化合物の組合せを選ぶ。
  2. 変換元の細胞から目的の細胞へ変換する転写因子を加えた際の「パスウェイ」の変動を模倣するような低分子化合物の組合せを選ぶ。
  3. 変換元の細胞から目的の細胞へ変換する転写因子を加えた際の「エピゲノム」の変化を模倣するような低分子化合物の組合せを選ぶ。

上記のアプローチは複数組み合わせて採用されることもあります。また、変換前後のデータがバルクかシングルセルかによって具体的な方法が変わります。

本連載では上記で挙げた2番目のパスウェイの変動の観点から若返りのDRを実現する化合物の組合せを予測します。

*1: Yang J, Petty CA, Dixon-McDougall T, Lopez MV, Tyshkovskiy A, Maybury-Lewis S, Tian X, Ibrahim N, Chen Z, Griffin PT, Arnold M, Li J, Martinez OA, et al. Chemically induced reprogramming to reverse cellular aging. Aging (Albany NY). 2023 Jul 12; 15:5966-5989 . https://doi.org/10.18632/aging.204896

2. 化合物の標的タンパクを取得

候補となる化合物はChEMBLに登録されているものを利用します。

以下の記事に従い、化合物のInChIKeyから標的タンパクのリスト(シンボル表記)を得る辞書(ink_syms)を作成します。

3. Pathwayを構成するタンパクを取得

前節で調べた化合物の標的タンパクに基づいて、化合物の標的パスウェイを同定します。

まずは以下の記事に従い、PathwayのIDからPathwayに含まれるのタンパクのリスト(シンボル表記)を得る辞書(ptm_syms)を作成します。

4. 化合物の標的Pathwayを同定

化合物の標的パスウェイを同定します。

以下の記事に従い、標的パスウェイを以下のような行列(df_score)として表現します。

5. Pathwayの観点から化合物をクラスタリング

以下の記事に従い、df_scoreに基づいて化合物をクラスタリングします。具体的にはbest_gmmおよびbic_results_umapを作成します。

6. iPS誘導化合物を代替する他の化合物の予測

こちらの論文で報告されているiPS細胞を誘導する化合物を比べ、別の化合物による置換を検討します。

7. 原料を絞った代替案の作成

食品や化粧品原料など、既に安全に使用できることが保証された化合物という条件のもと、代替化合物の予測を検討します。

8. 組合せの予測

予測した代替化合物の最適な組合せを予測します。

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