コスミドベクターは、プラスミドベクターでクローニング可能なDNA断片の長さのおよそ10倍程度の長さのDNA断片をクローニングできるベクターの一種です。
名称の由来
コスミドベクターの構成がプラスミドとλファージ(ウイルスの一種)のコス因子を組み合わせたものであるため、「コス」「ミド」ベクターと名付けられました。
構造と機序
コスミドベクターは、プラスミドベクターの骨格となる部分と、λファージのコス因子(cos: cohesive ends)からなる部分を主体として構成されています。
プラスミドベクター部分にはマルチクローニングサイト(MCS)等の制限酵素の認識部位や複製元(Ori)が存在し、λファージのコス部分はバクテリオファージが認識をしてDNAをパッケージングして形質導入をするための因子が含まれます。
プラスミドベクターのMCSにクローニングしたいDNA断片を挿入し、形質導入により宿主細胞にDNA断片を組み込みます。
特徴
コスミドベクターはプラスミドとファージを組み合わせたベクターとして、以下の特性があります。
- 1. クローニング可能なDNA断片の長さが大きい:コスミドベクターはプラスミドベクターより約10倍の長さのDNAをクローニングできます。
- 2. 高い効率:λファージのファージ粒子形成系を利用することで、高い効率で大腸菌などの細菌にDNAを導入することが可能です。
- 3. 安定性:プラスミドの部分があることで、導入された遺伝子断片を細菌内で安定的に維持できます。
実験手順
コスミドベクターによる遺伝子のクローニング手続きは以下の通りです。
- 1. まず、目的のDNA断片と同じ制限酵素でコスミドベクターを切断します。
- 2. 目的の遺伝子とコスミドベクターをDNAリガーゼで結合させてリコンビナントDNAを作ります。
- 3. λファージのパッケージング系を利用して、リコンビナントDNAをパッケージングします。
- 4. パッケージングしたリコンビナントDNAを大腸菌に感染させてDNA断片を導入します。
- 5. 大腸菌を培養し、その中から目的のDNA断片を保有するコロニーを選択します。
具体的な数値
コスミドベクターは一度に挿入できるDNA断片の長さが37-52 kbとされています。これはプラスミドベクターの4-5 kbと比べて非常に長いです。
従って、例えば50 kbの遺伝子をクローニングしたい場合、プラスミドベクターでは約10個以上のフラグメントに分けてクローニングする必要があるのに対し、コスミドベクターなら一度にクローニングすることが可能となります。
応用
コスミドベクターは大きな遺伝子断片を挿入できるため、ゲノム解析などに利用されます。また、遺伝子治療などの医療分野でも利用されることが期待されています。
遺伝子解析の場合、まず必要な遺伝子をコスミドベクターに挿入し、その後、大腸菌などの宿主細菌を用いて遺伝子を増幅させます。その後、その遺伝子を抽出し、シーケンス解析などを行うことで、その遺伝子の機能を解析します。
遺伝子治療の場合、病気治療のための遺伝子をコスミドベクターに挿入し、それを対象の細胞に導入します。その遺伝子が細胞で発現することで、病気の治療に繋がることが期待されています。
問題点と対応策
コスミドベクターを使うには、高度な技術が必要となるという点が挙げられます。デリバリーシステムとしてのλファージの活用は比較的高度な技術を必要とします。この問題に対する対応策としては専門的な教育や経験を積むことが求められます。
また、λファージを利用したシステムは生物に対する安全性が十分に明らかにされていないという問題点があります。この問題に対する対応策としては、十分な安全評価を行うことや、代替のデリバリーシステムを開発するといったことが考えられます。
参考書籍
バイオ実験基本セット
- これからはじめる人のためのバイオ実験基本ガイド (KS生命科学専門書)
- イラストでみる超基本バイオ実験ノート―ぜひ覚えておきたい分子生物学実験の準備と基本操作 (無敵のバイオテクニカルシリーズ)
- 改訂 バイオ試薬調製ポケットマニュアル〜欲しい試薬がすぐにつくれる基本操作と注意・ポイント
- バイオ実験法&必須データポケットマニュアル―ラボですぐに使える基本操作といつでも役立つ重要データ
- バイオ実験超基本Q&A―意外に知らない、いまさら聞けない
バイオ実験イラストレイテッド
- バイオ実験イラストレイテッド〈1〉分子生物学実験の基礎 (細胞工学別冊 目で見る実験ノートシリーズ)
- バイオ実験イラストレイテッド②
- バイオ実験イラストレイテッド〈3+〉本当にふえるPCR (目で見る実験ノートシリーズ)
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- バイオ実験イラストレイテッド〈5〉タンパクなんてこわくない (目で見る実験ノートシリーズ)
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