【生命科学】走査型電子顕微鏡(SEM法)【用語解説】

生命科学

走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope: SEM)は、対象物質に電子線を照射し、それによって発生する二次電子や後方散乱電子を検出し、その信号強度の分布から立体的な微細構造を観察することが可能な電子顕微鏡の一種です。

原理

SEMは高エネルギーの電子線を試料に照射することによって、試料から射出される二次電子を検出することで作像します。

電子線は微細なスポットに集束され、試料上をX軸とY軸方向にスキャンすることで二次電子の画像を得ます。

この電子線のスキャンにより、試料表面の微細な凹凸をとらえた画像を得ることができます。

手順

SEMの手順は以下の通りです。

  • 1. 試料のセット: SEMの試料台に試料をセットします。試料は導電性を持つ必要があり、そうでない場合は、予め金属蒸着などで表面を導電化しておきます。
  • 2. 真空状態への引き下げ: 試料室を真空状態にします。これは電子線が空気中の分子と衝突すると散乱してしまうためです。
  • 3. 電子線の照射: 高電圧をかけた電子銃から発生させた電子線を試料に照射します。
  • 4. 信号の検出: 試料から発生した二次電子を検出し、それを画像として表示します。
  • 5. 最適化: 焦点調整やスキャン速度の調整などを行いながら、最良の観察条件を探します。

構成

SEMは主に電子銃、コンデンサーレンズ、試料室、スキャニングコイル、二次電子検出器、真空系から構成されます。

  • 1. 電子銃: SEMで用いられる電子源で、一般的にタングステンフィラメントやランタノヘキサボライド(LaB6)、フィールドエミッション(FE)電子源が用いられます。これらから発生する電子線は、加速電圧により高エネルギーを持たせて試料に照射します。
  • 2. コンデンサーレンズ: 照射する電子線を集束させるための電磁レンズで、光学顕微鏡の対物レンズに相当します。
  • 3. 試料室: 試料を設置するためのステージと、これを真空状態にするための真空ポンプから成り立っています。
  • 4. スキャニングコイル: 電子線を試料上からスキャンさせるためのコイルで、電子線の走査方向を変えることができます。
  • 5. 二次電子検出器: 試料から発生する二次電子を検出し、その信号を画像とするための器具です。
  • 6. 真空系: SEMの全操作は高真空下で行われるため、この真空系が重要となります。

特徴

SEMの特徴は以下の通りです。

  • 1. 試料から出る二次電子や後方散乱電子を用いるため、立体的な画像を得られます。
  • 2. ビームが試料面に対して斜めに当たるところでは、試料面の微細な凹凸をより鮮明に観察することができます。
  • 3. 倍率調整が自由にでき、100倍から数十万倍までの拡大画像を得ることができます。
  • 4. 試料が比較的容易に作れ、耐用性が高く、あらゆる種類の素材を観察することが可能です。

具体例

SEMは豊富な情報を提供してくれます。

例えば、表面形状、表面化学組成、結晶構造等を詳細に観察することができます。

具体的には、金属材料の微細構造分析や化学物質の形状分析、生物組織の詳細構造観察等に用いられています。

また、電子回折や能量分散X線分析器(EDS)と組み合わせることで微量元素分析や結晶構造分析も可能になります。

TEMとの比較

電子顕微鏡には、他に透過型電子顕微鏡(TEM)という種類があります。

TEMは試料を透過する電子線から画像を得るもので、原子レベルの高分解能観察が可能です。

一方、SEMは試料表面の立体的な観察に長け、より広範な視野で観察することができます。

歴史や経緯

電子顕微鏡は1931年、ドイツの物理学者エルンスト・ルスカにより開発されました。

その後、1950年代から60年代にかけて透過型電子顕微鏡が開発され、電子顕微鏡の概念が広まりました。

その後、1970年代に入り、試料の表面を実空間で観察できる走査型電子顕微鏡が登場し、素材科学や生物学など様々な分野で利用されるようになりました。

問題点や課題

以下のような課題や問題点が存在します。

  • 1. 試料が電子線によって損傷を受ける可能性があります。これに対する対応策としては、電子線の照射量やエネルギーを調整することが挙げられます。
  • 2. 試料が真空状態でなければならないため、液体やガス状の試料を観察することが難しい点があります。これに対する対策としては、試料を固定化もしくは凍結するなどの手段があります。
  • 3. 価格が高いため、導入に大きな予算が必要となる問題があります。

応用

SEMは物質の微細構造を解析する強力なツールであり、素材科学や生物学、医学、地質学など、様々な分野で広く利用されています。

具体的な応用例としては、新素材開発時の微細構造解析、遺伝子組み換えされた作物の細胞構造観察、疾患診断のための組織の詳細観察などがあります。

また、電子ビームリソグラフィという微細加工技術の一環としても利用され、ナノスケールのデバイス作製などにも活用されています。

参考書籍

バイオ実験基本セット

バイオ実験イラストレイテッド

生命科学基礎セット

生命科学用語解説
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