【生命科学】階層化ショットガン法【用語解説】

生命科学

概要

階層化ショットガン法(Hierarchical Shotgun Sequencing)は、ゲノムシーケンシングの方法の一つであり、全ゲノムショットガン法と比較されます。本方法は、1つのゲノムを複数の小さな断片(コンティグ)に分割し、それらを個別にシーケンシングした後に、それらの情報を統合しゲノム全体の配列を再構築するという技術です。

この方法のキーコンセプトは「階層化」であり、ゲノムをより管理しやすい小さな断片に分割することで、全体のシーケンシング作業を容易にします。しかし、この方法には、全ゲノムショットガン法と比較して時間とリソースがかかるという欠点もあります。

原理

階層化ショットガン法の基本的な原理は、次の通りです。まず、ゲノムDNAをランダムに多数のフラグメントに分割し、各フラグメントについてDNAシーケンスを行います。次に、オーバーラップするシーケンスを見つけ出し、連続したDNA配列(コンティグ)を作成します。連続するコンティグを重ね合わせて全体のゲノムシーケンスを構築します。

この手法の特徴的なステップは、「階層化」ステップで、ランダムに分割したゲノムDNAフラグメントをより大きな断片(バクテリア人工染色体BACsなど)にまとめ、それら個々の大きなフラグメントのマップを作成します。このマップ(文献により「フィジカルマップ」とも呼ばれます)の作成が、階層化ショットガン法全ゲノムショットガン法の主な違いです。

実験手順と解析手順

階層化ショットガン法の実験手順は、以下のステップで行われます。

  • 1. DNA抽出: ゲノムDNAを抽出し、純粋で十分な量が得られるまで精製します。
  • 2. DNAの断片化: ゲノムDNAをランダムに断片化します。断片化の方法としては、物理的な方法(超音波処理など)や、制限酵素による化学的な方法があります。
  • 3. クローニング: ランダムに断片化されたゲノムDNAを人工的なDNAベクター(バクテリア人工染色体BACsなど)に挿入し、大腸菌などのホスト細胞に導入します。これにより、DNA配列の物理的なコピーを作成します。
  • 4. シーケンシング: 各クローンからDNAを抽出し、それぞれのクローンが持っているゲノムDNAフラグメントの配列を決定します。

解析のステップは以下の通りです。

  • 1. 連結: 各クローンから得られた配列を使って、オーバーラップする配列を見つけ出し、一連の連続した配列(コンティグ)を作り出します。
  • 2. 再組合せ: コンティグとBACのマップ情報を使って、ゲノム全体の配列を再構築します。

関連概念や用語との比較

階層化ショットガン法全ゲノムショットガン法は、どちらもランダムに断片化したゲノムDNAから配列を得るという手法ですが、その手順と理論にいくつか違いがあります。

全ゲノムショットガン法では、ゲノムをランダムに分割した全体のフラグメントの集合から直接シーケンスを行います。それに対して、階層化ショットガン法では、フラグメントをまずより大きなすべての断片(バクテリア人工染色体など)に”階層化”し、それぞれを個別にシーケンスします。この階層化ステップにより操作が容易になる一方、時間とリソースの消費が増えます。

また、それぞれの手法で得られた配列データの信頼性と精度も異なります。全ゲノムショットガン法の場合、ランダムにゲノムを分割してシーケンスするため、確率的には全ゲノムの各部分をカバーできると考えられます。これに対し、階層化ショットガン法は、全ゲノムをまず数十~数百の断片に分割し、その後それぞれの断片の中でショットガンシーケンシングを行うため、それぞれの断片の全体像がわかりやすいというメリットがあります。

歴史と経緯

階層化ショットガン法は、創設者:フレデリック・サンガーによって1980年代に開発されました。この方法は、ヒトゲノムプロジェクトの初期に使用され、ヒトゲノムの初の完全なシーケンスを得るのに使われました。

しかし、階層化ショットガン法は時間とリソースがかかるため、新たなシーケンシング技術の登場とともに次第に利用される機会が減りました。その一方で、特定のゲノム領域に焦点を当てたい場合や、ゲノム配列が複雑で難解な場合には依然として有用な手法であると考えられています。

問題点と対応策

階層化ショットガン法の主な問題点は、時間とリソースがかかること、及び高コストであることです。これを解決するためには、新たな技術の開発や既存技術の最適化が必要となります。また、階層化ショットガン法は、相対的に短い読み取り長さを持つ現代のシーケンシング機器によるシーケンシングデータを扱うことが難しいため、より長い読み取り長さを得られるシーケンシング技術の開発と組み合わせることも有効な対策となります。

参考書籍

バイオ実験基本セット

バイオ実験イラストレイテッド

生命科学基礎セット

生命科学用語解説
スポンサーリンク
猫森ひなたをフォローする
バイオインフォの森

コメント